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経済コラム


消費増税前でも盛り上がりを欠く個人消費
2019/09/10
消費増税まで1ヶ月を切った。2014年4月の前回の消費増税時には、大規模な駆け込み需要とその反動減が発生し、大きな景気の波を作ったが、今回はどうか。今年4-6月期の個人消費は前期比0.6%と確かに高い伸びだったが、これは駆け込みというよりも、改元に伴う大型連休の長期化や天候要因によるところが大きかったようである。実際、梅雨明けが遅れた7月には、季節商材を中心に消費関連の統計は軒並みマイナスとなった。駆け込み需要が強いのなら、総崩れはしないだろう。また、住宅や自動車、家電など、駆け込み需要が特に強いものを個別に見ても、従来ほどの盛り上がりは見られない。

今回駆け込みが盛り上がりを欠くのは、増税幅が2ポイントと前回に比べて小さいこともあるが、政府による各種対策の効果も大きい。駆け込みが生じやすい住宅・自動車は増税後に減税が用意され、増税と同時に始まるポイント還元制度では、中小企業でキャッシュレス決済という条件付きながらも、増税前より商品を実質的に安く手に入れることができる。慌てて駆け込む必要がないのである。また、増税による実質所得の減少についても、少なくとも当面は、教育無償化を始め様々な政府からの所得移転によって概ね相殺される。このため、増税後の個人消費を中心とした景気の落ち込みは、今回は軽微に済みそう、というのが大方の見立てだろう。ただ、懸念材料も二つほどある。一つは、世界経済の脆弱さであり、そうした中で消費増税を迎えることである。もう一つは、足下の消費者センチメントの弱さである。これは、駆け込み需要は盛り上がっていないのではなく、駆け込み需要があってもなお消費が持ち上がらないほど基調が弱いことを示唆しているのかも知れない。今のところ後者のリスクは小さいと思われるが、過去2回の消費増税ではいずれも駆け込み需要が事前には過少評価され、その結果、予想外に大きな反動減に見舞われたという経緯がある。油断は禁物である。
【クロワッサン】

英国で高まる合意なきEU離脱のリスク
2019/08/13
EUからの離脱期限が10月31日に迫り、今後イギリスでは大きな動きが予想される。まず考えられるのは、議会が「合意なき離脱」阻止のため、首相の行動を制約する法案を成立させるというものである。内閣不信任案を可決し、総選挙か内閣総辞職を迫るという手段もあり得る。議会が再開する9月3日以降、こうした動きが活発化してくるだろう。

一方、ジョンソン首相が解散総選挙を目指す可能性もある。英国では不信任案の可決か下院議員の3分の2以上の同意があれば解散が可能となる。仮に選挙で勝利すれば、ジョンソン首相の政治基盤は強化され、国内的にもEUとの交渉上も優位に立てる。とはいえ、選挙の行方は相当に不透明であり、実際に行われた場合、どのような結果となるのか、現時点では確たることはわからない。

10月31日に離脱期限を迎え、そのまま合意なき離脱に至る可能性もある。首相は離脱期限を守る方が選挙に有利と判断し、議会はそれを阻止できず、EUも譲歩しないかもしれない。EUと新政権が、北アイルランドのバックストップ問題で妥協できる余地が極めて乏しいことを考えると、歩み寄りによって合意が成立する可能性よりは、「合意なき離脱」に至るリスクの方が高いだろう。

以上、目先起こり得る動きについて述べたが、10月31日に直ちに合意なき離脱となるケース以外は、内閣不信任案も総選挙も、EU離脱を巡るプロセスの一つに過ぎない。それらを消化した上で、イギリスは再び、合意ある離脱、合意なき離脱、EU残留のいずれかを模索していくことになる。現時点では、総選挙で強硬離脱派が過半数を取る可能性がやや高いと見られること(但し保守党単独政権となるかはわからない)、また、10月31日の期限切れによる離脱の可能性もあることを考えあわせると、合意なき離脱の可能性が最も高いように見える。英国は勿論、経済基盤の脆弱なユーロ圏など周辺国に与える影響も懸念されるところである。
【クロワッサン】

貿易協議再開でも中国は景気対策を強化
2019/07/24
中国の1-6月の経済成長率は前年比6.3%と、今年の政府の成長目標である6〜6.5%の範囲に収まった。もっとも、中国共産党は2012年の党大会で、2020年のGDPを2010年対比で倍増させる長期目標を掲げており、この実現には、2019、2020年の成長率が6.2%以上となる必要がある。6.3%という数字は実はギリギリのラインである。中国のGDPは統計というより当局のメッセージという側面があるが、ギリギリのGDPを発表したのは、これ以上の減速を断固回避するという、当局の意思表示とも解釈できる。

実際、中国の1-6月の6.3%の成長のうち、1.3ポイントは輸入減による外需の寄与であり、内需はGDPで見るよりさらに低調である。これ以上、減速が強まれば、過剰債務を抱える企業のバランスシートが悪化し、金融システムの動揺にも繋がり兼ねない。雇用が悪化し、習近平指導部に対する不満が高まる恐れもあるだろう。このため、さらなる減速の徴候が現われれば、当局は直ちに、債務を膨張させる副作用のあるインフラ投資の拡大を含め、即効性のある景気刺激策を強化すると見られる。米中貿易協議が再開されても、その結果を待つ余裕は最早ないだろう。過剰債務の問題は問題含みの景気対策によってますます悪化しそうだが、少なくとも当面は、そうした対策によって、中国発の世界経済の一段の減速は回避されると見られる。
【クロワッサン】

収斂する先進国のインフレ率
2019/06/25
日本は低インフレで知られるが、近年、米国や欧州と日本のインフレ率は接近しつつある。CPI全体の伸びは欧米の方が日本よりまだかなり高いのだが、家賃を除いて比較すると、その差は0.3〜0.4ポイントにまで縮小してきた。格差縮小の原因としては、まず、日本のインフレ率が2013年以降、下がりにくくなったことがある。かつて日本の家電製品は異常に値崩れしていたが、2010年代前半に日本企業が家電製品の生産拠点を海外に移し、輸入するようになったことで、これが収まった。2013年以降、円安傾向となったことも相対的にインフレを押し上げた。もう一つは、米国と欧州のインフレ率が上がりにくくなったことがある。世界金融危機や欧州債務危機を受け、米欧の中央銀行は積極的に金融緩和を進めたが、マネーの多くは実物投資よりも金融資産や不動産に向かった。その結果、資産価格は上昇したが、財・サービスの価格はあまり上がらなかったのである。

ただし、欧米では不動産価格の上昇が家賃を押し上げ、これがインフレ率を高めている。これに対して日本では、個人などのマネーが賃貸用不動産に向かったため、賃貸用不動産が供給過剰となり、家賃の上昇も抑制された。日本でも不動産価格そのものは上昇しているのだが、CPI統計における家賃の8割は「持ち家の帰属家賃」であり、これは「持ち家」と称しつつも、近所の民営家賃を基に計算される。したがって、家賃が上がらなければ、いくら不動産販売価格が上がっても、CPI統計には反映されない。日米欧のインフレ格差の実態は縮小しつつあるが、結局はこの家賃が重石となって、統計上、日本のインフレ率は目立って低い状況が続いている。
【クロワッサン】

不確実性の高まりがもたらす金融緩和
2019/06/11
米政権の強硬な通商政策が世界的に不確実性を高めているが、欧州でも政治的な混迷が広がり、不透明感を一段と強めている。きっかけは5月下旬のEU議会選挙だった。同選挙では、既存の中道政党が大敗したが、この結果を受け、まず英国では、与党保守党が、(EU離脱を望む支持者を強行離脱派のBrexit党に奪われたと考え)退陣を表明したメイ首相の後任に、強硬離脱派を選ぼうとしている。特に有力候補とされるボリス・ジョンソン元外相は、「合意なき離脱」も辞さない強硬離脱派として知られており、同氏が首相となれば、EUとの対立が深まるのは勿論、ハード・ブレグジットの可能性も相当に高まりそうである。また、イタリアでは、連立与党内で、同盟が五つ星に大差をつけて勝利したが、このことにより、同盟が連立を解消し、総選挙に打って出る可能性が高まっている。同盟は、元々は拡張財政を強く訴える政党ではなかったのだが、選挙を意識して大規模減税などのバラマキを掲げ、同国の財政赤字を問題視するEUとの対立が深まっている。ドイツでも与党大敗で連立解消の可能性が浮上、総選挙に発展するリスクが生じており、ギリシャでは既に7月に総選挙が行われる予定となっている。

こうした混乱する政治情勢は、貿易戦争同様、企業の嫌う不確実性を高めるものである。企業は先行きが不透明であれば、設備投資などの支出を手控えることになるが、これが各国における資本財需要を押し下げ、世界経済を下押しすることになる。こうしたリスクに対応し、各国中央銀行も動き始めた。FED高官は利下げの可能性を示唆し始めており、ECBもフォワードガイダンスを長期化、さらなる緩和措置を模索しているようである。欧米が金融緩和によって、通貨安を競い合う事態となれば、日銀も傍観者ではいられなくなる。政治的な不確実性の高まりの帰結として、世界に金融緩和が広がってきそうである。
【クロワッサン】

中身の変わった経常黒字
2019/05/28
2018年度の経常黒字は2000年代半ばに匹敵する高めの水準だった。とはいえ、その中身は、随分変わっている。当時は経常黒字の半分以上を占めていた貿易黒字は、今やほとんど解消され、代わりに増えているのが所得収支やサービス収支の受取である。日本企業は2010年代に生産拠点の海外シフトを一段と進め、それによって財の輸出は減少したが、そうした投資が今度はロイヤリティ収入や配当を生み出し、それが現在の経常黒字の大部分を占める構図となっているのである。

こうした経常黒字の構成の変化は、為替相場にも影響を及ぼしている可能性がある。従来型の財の貿易で稼いだ外貨は、円転されることが多かったため、円買い圧力に繋がっていた。換言すると、貿易黒字を中心とした経常黒字は円高圧力を齎し易かったのである。一方、現在の経常黒字の稼ぎ頭である所得収支の中には、必ずしも資金移転を伴わないものが多い。例えば、直接投資収益には、再投資収益が50%程度含まれるが、これは、現地企業の内部留保に当たるものである。そうした資金は現地での再投資に充てられ、円転されないケースが多い。証券投資収益についても、その9割程度を占める債券利子は円転されずにそのまま再投資されることが多い。同じ経常黒字であっても、その性質の違いによって、従来よりも円高圧力を生み出しにくくなっている可能性がある。このことも、近年の円相場の安定に影響していると見られる。
【クロワッサン】

再燃する米中貿易戦争
2019/05/14
合意寸前と思われていた米中貿易協議が決裂し、米国は今月10日、2000億ドル相当の中国製品の追加関税を10%から25%に引き上げた。さらに、追加関税の対象外だった3000億ドル相当に、25%の追加関税を「近いうちに」課すとも表明した。中国側は直ちに報復関税を表明し、昨年末から停戦状態にあった米中貿易は再び深刻化している。ただ、全中国製品に25%の関税を課した場合、これまで課税対象から極力外してきた消費財の比率が大きく上昇するため、米国の家計部門への悪影響が飛躍的に増す。このため、関税拡大を声高に主張しつつも、トランプ政権は実際にはこれ以上の対象拡大を行わない可能性もある。

仮に追加関税がこれ以上拡大しないなら、米経済は輸出依存度が低いため、実体経済への影響はさほど大きなものとはならないだろう。また、中国への直接的な影響は大きいものの、政府が追加の景気対策を打ち出すと見られるため、結局、中国も急激な失速は避けられるのかもしれない。ただ、そうした場合でも、日本経済は少なからぬ影響を受ける。それは、今回の米中協議の決裂を受け、米中の対立の根深さが誰の目にも明らかになってしまったことが背景にある。追加関税が実際にはこれ以上広がらないとしても、多くの経営者は、米中が再び衝突して、追加的な制裁が科される事態に備えて行動するようになり、設備投資などの支出を抑制する可能性が高い。その時、大きな影響を受けるのは、日本やドイツなどの資本財輸出国である。
【クロワッサン】

中国経済は底入れも回復は緩慢か
2019/04/24
世界経済は昨年始めから成長ペースが鈍り、年末以降は一段と減速している。これは、世界第二位の経済規模となった中国で、過剰債務や過剰生産能力を削減するための引き締め策が取られて内需が減速したことと、これに追い打ちをかけるように、米中貿易戦争が深刻化したことが背景にある。中国経済の落ち込みは、輸出を通じて各国へ波及し、昨年末以降、減産や設備投資の抑制が始まる国が増えている。

一方、元凶の中国では、ようやく底入れの兆しが現われてきた。民間部門の減速は続いているが、景気対策の効果でインフラや不動産の投資などが底入れし、セメントや鉄など関連の生産が伸びてきた。では、中国経済はこの先、どの程度持ち直すのだろうか。中国の政策当局は、雇用不安をもたらすほどの景気下振れは回避する方針だが、過剰問題の解決をあきらめたわけでもない。金融緩和やインフラ投資など従来型の景気対策は、効果は大きいものの、過剰問題を悪化させる副作用がある。それゆえ、それ故、景気底入れが見え始めた以上、政策当局が、景気対策を積み増す可能性は低下したと考えられる。実際、金融調節に関しては、早くも緩和度合を後退させる動きが見られ始めてきた。このため、景気対策で下げ止まりには向かうものの、中国が大きく持ち直すこともなさそうである。同国の景気は、4-6月には下げ止まりが明確化し、7-9月から回復が始まるが、そのペースは緩慢なものに留まる、といったところではないか。米国では大型減税の効果が年後半には剥落すると見られており、欧州では政治不安で設備投資が伸び悩んでいる。こうした中で、中国の力強い回復も期待できないとすれば、世界経済は一時的な持ち上がりはあっても、再加速には繋がりそうにない。
【クロワッサン】

悪化する企業・家計のセンチメント
2019/04/10
週初に3月の景気ウォッチャー調査および消費動向調査が公表された。これらは企業や家計のセンチメントを測る調査だが、いずれも大きく低下し、2016年以来の低水準となっていた。後者の消費動向調査の内訳をみると、昨年10月以降、物価が1年以内に大きく上がると考える人の割合が急増しており、今年10月に控えた消費増税がセンチメントを悪化させていることが窺われる。ただ、原因はそれだけではないようだ。第一に、2014年4月の消費増税の1年前にも消費者センチメントは悪化していたが、その内訳である雇用に関るセンチメントは悪化していなかった。今回はそれが2018年初めから悪化している。第二に、前回の消費増税前は、企業のセンチメントは駆け込み需要への期待からむしろ改善していたが、今回はこれも悪化している。今回の家計のセンチメント悪化のもう一つの原因として考えられるのは、中国発の海外経済の減速だろう。輸出や生産は年初から減少しているが、その悪影響が家計部門にも波及してきたということである。それが消費行動にも現われてきたため、年始から消費は冴えず、小売業者などを対象とする景気ウォッチャー調査の家計動向関連DIも冴えない、というわけだ。

では、この先どうなるのか。震源の中国では景気対策の効果で、持ち直しの兆しが現われている。このため、日本の輸出や生産、ひいては家計部門のセンチメントも早晩底入れが期待される。とはいえ、中国では過剰債務が積み上がっており、景気刺激に即効性のあるインフラ投資を拡大すれば、事態の悪化は避けられない。それ故、中国当局は、景気対策の柱は副作用が小さい代わりに即効性を欠く減税としており、この先も大きな回復は見込み難い。こうした中、世界経済の牽引役を担ってきた米国でも、昨年の大型減税の効果が徐々に剥落し始めており、どうやら、日本の輸出は一旦持ち直しても、その後は良くて足踏みとなりそうである。となれば、輸出の回復を起点とした所得増・支出増のメカニズムも期待し難い。こうした中で消費増税が控えるとなれば、多くの増税対策が用意されているとはいっても、家計の財布の紐はかたくならざるを得ない。景気の先行きはやはり明るいとは言い難いようである。
【クロワッサン】

低成長でも悪化しない労働市場
2019/03/27
昨年来、過剰債務対策や貿易摩擦の影響で、中国経済が減速している。これに伴い、世界経済も減速し、日本経済も昨年後半は概ねゼロ成長、2018年年間でも0.8%と潜在成長並みに留まった。ところがこうした中で、就業者数は大きく増加している。2018年は6664万人と前年から134万人増加したが、これは1953年の統計開始以来、最大だった。成長が冴えない中で雇用が伸びた原因は、生産性の低下である。少子高齢化で長時間働く男性正社員が減少し、代わりに、これまで企業が積極的に採用してこなかった学生や主婦、高齢者の採用が劇的に増加した。そうした人々は、労働時間が短かったり、就労経験が乏しかったりすることによって、生産性が低い場合が多い。従来の従業員が一人で行っていた業務を遂行するのに、二人必要になったりする。かくて、生産量は伸び悩んでも、就業者が増える、ということが起こっているのである。

では、このまま景気が減速し続けると、何が起こるのだろうか。企業は労働投入や労働コストの削減を図ることになるが、働き方改革もあって残業時間は既に大きく減っている。このため、まずは、これまで相当に無理をして掻き集めていた採用を減らすのだと思われる。雇用機会が減少し、さすがに就業者数が減ってくることになるが、それでも失業率が上がるとは限らない。前述の学生や主婦、高齢者は、被扶養者だったり、年金受給者だったりする場合が多く、そうした人々は、望ましい勤め先がなければ、失業者とならずに、非労働力化する傾向があるからである。昨年、増加した就業者の4割は70歳以上だが、そうした人々の多くは、そのまま引退するのではないか。言うまでもなく、失業率は景気減速の程度にも左右されるが、2012年のミニ不況の際には、失業率は上がるどころかむしろ低下した。今回もさほど深刻な減速でなければ、同様のことが起こりそうである。
【クロワッサン】

始まらなかったインフレ加速
2019/03/12
2018年後半から日本のGDP前年比はゼロ近傍まで低下しており、需給ギャップの改善はすっかり止まってしまった。インフレ上昇のモメンタムが維持されている、とは言い難い状態だが、そもそも需給ギャップが改善していた頃から、インフレは加速していなかった。散発的な値上げは起こっても、それが経済全体へ広がることはなかったのである。90年代終盤から「上がらない物価」が常態化したため、家計や企業の間にゼロインフレ予想が根付き、よほどの事情がない限り値上げは許されない、という社会規範が出来上がってしまったのだろう。

勿論、ゼロインフレ予想が強固でも、需給ギャップの改善が続けば、いつかは閾値を超えてインフレが加速するはずである。それが一頃の日銀の戦略でもあった。ただ、企業の値上げに対する拒否反応は思いのほか強かった。主婦や高齢者、外国人労働者を大量に採用し、省力化投資を推し進め、客足が少ない時間帯の営業を止めてまで、値上げを阻止しようとなりふり構わぬ企業努力を続けた。その結局、閾値を超えてインフレが加速する前に、景気の方が息切れしてきた、という構図である。

そうした日本で値上げが例外的に許されるのは、消費増税など制度要因を除けば、円安や原油高など、明らかな外的ショックが生じたときである。近年のフィリップスカーブは、需給ギャップが改善しても僅かしかインフレが上昇しないという関係を示しているが、実際には、その僅かな上昇さえ見せかけの相関かもしれない。というのも、2000年代に入って需給ギャップのインフレ率への影響は観察されなくなり、2010年代から微弱な関係が復活するのだが、これは、2007〜2009年に世界経済が大きく改善・悪化し、そのことによって、需給ギャップの改善・悪化と、商品市況の上昇・下落が同時に起こったためかもしれない。インフレに影響したのは主に後者だが、フィリップスカーブ分析上は、あたかも需給ギャップの変動が物価変動を引き起こしたように見えた、というわけだ。世界経済、特に米経済が減速すると、FRBが利下げを実施し円高が進みやすいが、そのことも、日本のインフレを下げる要因となった可能性がある。

つまり、ゼロインフレ予想が根強く、国内要因だけでは物価が動きづらいため、海外要因がインフレを左右しがち、ということだ。足下では、中国主導で景気下振れリスクが高まり、商品市況の軟化も起こりやすい。となれば、やはりインフレ率はますます下振れ気味に推移する可能性が高そうである。そして、こうした動きは既に起こっているともいえる。昨年10月後半から12月にかけて原油市況が急落したが、この影響がタイムラグをおいて波及し、日本のCPIは夏場にかけて徐々に軟化していく公算が大きい。
【クロワッサン】

与信拡大で中国景気は反発するか
2019/02/26
中国当局は2017年秋以降、過剰債務など構造問題の解消に向けた取り組みを強化し、その影響で、同国経済は2018年年初から減速している。つまりある程度の減速は、中国当局には「想定内」だったわけだが、そこに米中貿易戦争の悪影響が加わったことで、想定以上に景気が下振れし、梃入れを余儀なくされている。ただ、過剰問題の悪化をおそれているため、これまでに打ち出された主な景気対策は、企業向けや家計向けの減税、関税引き下げなど、副作用の少ない代わりに景気刺激策としては即効性に欠けるものが多かった。

こうした中、久々に大きく拡大した1月の与信統計に金融市場は湧いた。中国政府による引き締めがついに緩み始め、マネーが経済に行き渡り、同国経済は春以降に再加速する、と楽観視する向きも出てきたようだ。しかし、果たしてそうなるだろうか。中国では債務残高がGDPの2.5倍まで膨れ上がっており、新規融資が増えてもかなりの部分が利払いや債務返済に向かう。また、金融緩和の効果が最も速く顕著に現われるのは、中国の場合、不動産セクターだったが、当局がバブルを警戒し、様々な規制を強化したため、今回はなかなか盛り上がらない。今のところ、過剰債務及び不良債権をさらに増やすリスクを冒してまで、そうした規制を緩めるつもりはなさそうである。与信拡大に象徴される中国当局の景気の梃入れは、成長率を押し上げるほどの効果はやはりないだろう。中国経済の減速はまだまだ続くと見られる。
【クロワッサン】

各国で広がる景気下支え策
2019/02/13
世界経済は2018年始めから減速傾向にあったが、秋口からは成長ペースが一段と鈍化している。原因は複数あるが、最大の要因は中国経済の減速である。当初は、中国当局が過剰債務削減など国内の構造改革に踏み切ったことが、同国の景気減速を引き起こしていたが、秋以降は米中貿易戦争の悪影響も徐々に強まり、減速基調を強めることとなった。中国の減速は、輸出を通じて日本などアジア圏は勿論、欧州にも悪影響を及ぼしており、内需が強い米国以外は、軒並みペースダウンを余儀なくされている。

そうした中、各国の政策当局は、景気の下支えに動き始めている。まず、中国は、過剰債務問題の悪化に繋がりやすいインフラ投資の拡大には慎重であるものの、家計や企業への減税、輸入関税の引き下げ、金融緩和などを、矢継ぎ早に打ち出している。欧州でも政治不安に悩むフランスやイタリアが低所得層向けの支出拡大を予定しており、米国では深刻化する一方だった中国との貿易戦争において、妥協点を探る動きがようやく表れている。何より影響が大きいのが、米FRBが利上げを一旦停止したことだろう。これを受け、世界各国でリスク資産価格が反発し、新興国にも資金が再び流入している。一連の対策により、世界経済が直ちに後退局面入りする可能性は遠のいたように見える。尤も、昨年来の減速の底流にあった、過剰債務を抱えた中国経済の減速や、先進国の景気の成熟化、米中貿易戦争を巡る不確実性、欧州主要国の政治混乱などは、何ら変わっていない。目先はどうにか凌いでも、世界経済は2019年後半までには、減速基調を強めていくと可能性が高いと見る。
【クロワッサン】

難題山積のポイント還元制度
2019/01/30
昨年来、消費増税対策として、様々な財政措置が打ち出されてきたが、目玉はやはり、ポイント還元制度だろう。中小店舗でキャッシュレス決済した際に5%、フランチャイズチェーンなら2%のポイントが付与されるという制度である。もっとも、この制度の効果や費用が最終的にどの程度になるのかは、ひとえに消費者の行動にかかっており、実際のところ誰にもわからない。政府は、9ヵ月あるポイント還元期間に対し、2019年度の6ヵ月分に3千億円弱の予算を付けており、2020年度の残り3ヶ月分との合計で、どうやら4千億円強の予算を投じる心積もりのようだが、根拠のある数字とは言い難い。政府自身が、ポイント還元制度の予算が足りなくなれば補正で対応する、と今から述べている始末である。

仮にポイント還元の費用が想定以上に膨れ上がったとしても、中小・零細店舗のキャッシュレス化が進むのなら、それはそれで良い、と考える人もいるかもしれない。しかし、実際に起こることは、キャッシュレス決済の手段を元々持っている人々が、大型店舗やキャッシュレス未対応の中小零細企業での購入を控え、元々キャッシュレス対応済みの中小店舗(及びネット販売)での購入を増やす、という動きではないだろうか。中小零細企業が新規にキャッシュレス決済のツールを導入したり、2%や5%の還元のために、カードやスマホを始めて持つ人が増えたりする効果より、元々キャッシュレス決済していた人々が、キャッシュレスの範囲を広げる効果の方が大きくなるのは自然だろう。また、ポイント目当ての企業間取引も、(合法・違法を問わず)大きく増える可能性がある。

ポイント還元制度には、財政支出が膨張すること以外にも様々な問題がある。まず、所得水準や消費水準が高い人ほどキャッシュレス決済の手段を持っている傾向が強いため、非常に逆進的な政策である。また、巨額の国費を投じる割に、低所得層への恩恵は小さく、もう一つの目的であるキャッシュレス化の促進についても、費用対効果が検証された形跡はない。さらに、還元対象からカード会社の手数料に至るまで、未だ制度の詳細が固まっていない。10月の導入までにシステム対応は果たして間に合うのだろうか。再三指摘されているように、ポイントを狙った不正行為の横行を防ぐ手段も必要である。これらの難題を解決しても、待ち受けるのは、店舗や商品によって異なる5種類もの消費税率の乱立である。現場の混乱は必至だろう。何故こんな制度になったのかと嘆きたいところだが、とにかく一刻も早く制度の詳細を詰める必要がある。
【クロワッサン】

見えてきた景気拡大局面の終焉
2019/01/15
先日公表された2018年12月の中国の貿易統計は、予想以上に悪い内容だった。輸出が減少に転じたのもさることながら、より懸念されるのは輸入の落ち込みである。中国の製造業PMIは景気拡大・縮小の分岐となる50を12月に割り込んだが、輸入の落ち込みはPMIが示唆する以上に、中国の内需が低調なことをうかがわせる。

振り返ると、世界経済が絶好調だったのは、2018年年始までだった。その頃から、商品市況の高騰、人手不足、金利上昇といった、景気拡大局面の終盤に典型的に現われる成長抑制要因が増え始め、先進国を中心に金融緩和の修正(長期金利の上昇)も進んでいったのである。そこに中国経済の減速が加わったことで、世界経済は2018年始めからペースダウンし始めた。当初、中国経済の減速は、中国当局が過剰債務や過剰生産能力などの構造問題に着手し始めたことにより、もたらされた。しかし、夏以降は米中貿易戦争の悪影響が徐々に拡大、それによって中国の減速の度合いは強まり、12月には深刻さが一段と増すに至ったのである。中国の対米輸出は意外に堅調だが、各国企業の中国での設備投資が急激に減り始めたことが痛い。グローバル企業は、米国による対中関税引き上げに加え、知財保護などの観点で行われるIT企業への相次ぐ制裁も強く懸念しており、中国内での設備投資に極めて慎重になっている。これは中国経済にとって、短期的には勿論、長期的にも強い逆風となる。そしてこうした中国経済の苦境は、昨年同様、輸出を通じて各国に広がることになるだろう。

これに対抗しうる明るい材料は今のところ見えてこない。中国自身、落ち込みを和らげるべく、経済対策を拡張しているが、今のところ目立った効果は現われていない。欧州では、ポピュリストが政権を獲得したイタリアに留まらず、英国ではBrexit、フランスでは激しいデモが混乱を招き、政治は景気を支えるどころか足を引っ張る材料となりそうである。日本も消費増税を控え、米国は追加財政どころか政府閉鎖が解消する目途さえ立たず、年後半には昨年の大型減税の効果が剥落してくる。世界経済の拡大はいつ止まっても不思議ではない状態にある。
【クロワッサン】

2019年は年後半から景気減速か
2018/12/12
2018年7-9月期のGDP統計・2次速報では、実質GDP成長率が年率2.5%ものマイナスだったことが確認された。これには台風や地震など一連の自然災害も影響しており、10-12月期には反発が見込まれる。ただ、そうはいっても、マイナス成長に陥るのは今年に入って2度目のことで、振り返ってみると、年始から景気の拡大ペースは鈍い。中国経済や欧州経済が年始から減速し始め、これに伴い、輸出や生産の拡大が止まったことが大きいのだろう。唯一好調な米国でも、このところ金利上昇の悪影響が徐々に強まっている。今後は大型減税の効果も徐々に減衰するため、米経済も来年後半には減速に向かいそうである。そうなれば、日本では輸出が一段と減速すると共に、唯一堅調だった設備投資の調整も始まる可能性がある。それ以外にも、貿易戦争や欧州の政治混乱など懸念材料を上げればきりがない。

とはいえ、景気の下支えとなる材料もある。まずは、日本政府が消費増税の悪影響を緩和すべく、あらゆる手を尽くしており、教育無償化や国土強靭化、ポイント還元や住宅ローン減税・自動車減税など、増税分を上回る財政支出を予定していることだ。財政健全化という点では本末転倒と言わざるを得ないが、目先の景気には取りあえずプラスである。また、中国でも景気減速や貿易戦争の悪影響に備え、景気対策を強化する動きがあり、輸出を通じ日本にも恩恵が及びそうである。10月に始まった原油価格の大幅な下落も、資源輸入国である日本にとっては朗報である。前述のように、来年は景気の不安材料が非常に多いが、下支え要因も多いことを鑑みると、直ちに減速が始まるというわけでもなさそうだ。当面は潜在成長並みの成長率が続き、来年後半あたりから、米経済の減速と共に日本経済も失速するといったところだろうか。
【クロワッサン】

インフレの芽を完全に摘む原油安
2018/11/27
深刻な人手不足が続く中、企業の人件費負担は緩やかながらも着実に増大している。しかし、それでもインフレが加速する兆しは現われない。企業は値上げで顧客が逃げることを恐れ、省力化投資や低採算事業の縮小による生産性向上、低賃金の外国人労働の活用など、あらゆる手段を駆使して値上げを回避している。10月の全国の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合(CPIコア)が前年比1.0%、日本銀行が注視しているとされるエネルギーを除くCPIコアは0.4%と、いずれも9月と全く同じであった。日本社会に強固に根付いたゼロインフレ予想は、一向に解消される様子がない。

この先も景気拡大が続き、なおかつ円安や原油高が大きく進むのなら、流石にコスト吸収が限界に達し、人件費を上乗せした価格設定を行う企業も増えてくるだろう。しかし、現実には、円安は進まず、原油価格に至っては急落している。WTI先物は5月から10月半ばまで1バレル=70ドル前後で推移していたが、10月後半から急落し、足下では50ドル程度と20ドルほど水準が切り下がってしまった。CPIと原油市況の過去の関係を見ると、10ドルの原油安が0.1〜0.2ポイントのCPIコアの押し下げに繋がっている。これを機械的に当て嵌めるなら、CPIコアは来年にかけて0.2ポイント程度、下振れする計算となる。

勿論、足下の原油安には、株価の調整やサウジ増産、イラン制裁適用除外の発表なども影響しており、これらの要因が消化されれば、多少は持ち直すのかもしれない。また、欧州や日本など資源輸入国の成長ペースが鈍った原因の一つは交易条件の悪化であり、原油安で交易条件が持ち直せば、これらの国々の成長が下支えされ、それが需要面から一段の原油安を食い止める一助ともなり得る。さらに原油安が続いた場合でも、これまで人件費などのコストを販売価格に転嫁できずに利益が削られてきた国内企業が、直ちに値下げに踏み切るとは限らない。従って、結果的にインフレはさほど下がらない、ということもあり得るが、とはいえ、原油高がインフレ加速の後押しとなることは望むべくもなくなった。日本経済の成長ペースが今年の始め頃から既に鈍っていることを鑑みると、インフレの加速が始まる前に、今次景気拡大局面が終わってしまう可能性がいよいよ高まっているようである。
【クロワッサン】

長期的視点が求められる外国人労働の受け入れ拡大
2018/11/12
今国会の目玉法案は、外国人の新たな在留資格を設ける入管法改正案である。「相当程度の知識や経験を要する技能」を持つ人向けの特定技能1号と、「熟練した技能」を持つ人向けの特定技能2号を、来年4月にも設けるというもので、前者は事実上、外国人の単純労働を解禁するもの、後者は家族帯同や永住への道を開くものとして、注目されている。日本で働く低スキルの外国人労働はこれまでにも増加してきたが、その多くは、技能実習や留学などの在留資格を流用した裏口的なもので、雇用条件が劣悪なことも多く、問題が多かった。新たな在留資格で、正攻法での受け入れに代わるなら、その点は適切だろう。ただ、今回の資格新設に際し、人手不足対応ばかりが強調されているのは気に懸かる。リーマンショック後、好況期に大量に流入したブラジルの日系人が多数失職して社会問題となったことは、まだ記憶に新しい。今回も好況期の需要に合わせて人手確保を焦るのでは、二の舞となりかねない。

そもそも、移民大国である米国の研究によると、低スキル移民の増加は、企業に大きな恩恵をもたらすが、国内の低スキル労働は供給増で賃金が低下するため、総じて見れば恩恵は小さいという。日本は、外国人労働の活用レベルが低い上、少子高齢化による生産年齢人口の減少が大きいため、米国の議論がそのまま当てはまる訳ではないが、所得格差が同様に拡大する可能性は否定できない。このため、低スキルの外国人労働を増やすなら、国内の所得分配策の見直しも必要となるが、今のところそうした議論は進んでいない。また、低スキルの外国人労働や家族帯同が増えれば、欧米のように社会保障給付が増加するリスクがあるが、これも議論が尽くされたとは言い難い。社会保障の本質は、高所得世帯から低所得世帯への所得移転であり、現行制度の下、低スキルの労働が増えれば、社会保障給付が増大するのは元より明らかだった。しかし、配偶者年金の受給資格や健康保険が適用される扶養家族の制限など、ごく入口の議論さえ、ごく最近になって漸く始まったところである。外国人労働の受け入れは、メリットもデメリットも大きいだけに、長期的な視点から慎重に検討する必要がある。拙速は厳禁である。
【クロワッサン】

活発化する通信料引き下げ論議
2018/10/24
携帯電話通信料を巡る議論が活発化している。通信業界は大手3陣営が9割のシェアを握る寡占市場であり、以前から、競争が働かず、料金が割高、という批判は根強い。8月に菅官房長官が「4割値下げ余地がある」と発言したことをきっかけに、俄然注目が高まった。政府は通信料の是正を過去にも度々促してきた経緯があるが、今回は特に強い態度で臨んでいるようである。これは、来年10月に消費増税を控えていることが影響しているのだろう。というのも、仮に4割の値下げが実現するなら、消費者物価は1ポイント弱下落し、家計の実質購買力を1ポイント弱押し上げるからである。これだけで、消費増税で失われる実質購買力の分がほぼ相殺される計算となる。また、「5G」時代となり、データ使用量のさらなる拡大が見込まれることも、政府が料金体系の早期是正を急ぐ背景にある。

とはいえ、通信料金は既に自由化されており、政府が民間企業に値下げを強いることはできない。そもそも、民間企業が高価格を設定しても、消費者が不満ならば他社に乗り換えれば良いだけで、本来は問題がない。通信料が槍玉に上がるのは、単に価格が高いからではなく、競争が働いていないからである。公正取引委員会も、大手3社がスイッチングコストを意図的に高める契約などで、新規参入を阻害している可能性を再三指摘している。従って、政府がすべきことは、競争促進によって、消費者の選択肢を増やすことであり、それによって価格が下がるかどうかは副次的なものとなる。長い間、競争とは無縁であった電力業界は、今や地域や本業を超えた競争が働き始め、値下げやサービスの多様化に繋がっている。通信料についても政府の手腕に期待したいところである。
【クロワッサン】

燻る人民元ショック再来のリスク
2018/10/10
米金利が上昇する中、新興国の多くは自国通貨の防衛のため、景気を抑制する利上げや為替介入を余儀なくされている。こうした中、中国だけは金融緩和を進め、10月8日には預金準備率の引き下げに踏み切った。それでも人民元の急落が避けられているのは、中国当局が厳しい資本規制を敷いているためである。8月初旬までは、米中貿易摩擦の悪影響を減殺するためか、当局は人民元安を傍観していたが、その後は、人民元安を抑制すべく、資本規制や為替相場対策の強化に乗り出した。また、人民元安の急落が抑えられているもう一つの理由は、中国当局がマクロ安定化政策によって、景気の底割れを防ぐと見做されていることである。当局は、米中貿易戦争の悪影響に備え、インフラ投資など即効性の高い政策や、個人所得税、法人税、輸入関税など幅広い減税を打ち出しており、その効果はこれから現われてくる。厳しい資本規制と景気対策によって、人民元安圧力が食い止められるというのが現在の基本シナリオである。

もっとも、中国の政策当局は、短期的に景気を嵩上げする手腕には定評があるものの、金融市場の扱いは不得手であり、介入しては失敗を繰り返している。当局の本音は、金融緩和を進めつつも、経済に混乱を齎す急激な通貨安は回避したい、しかし緩やかな人民元なら大歓迎、というやや矛盾したものだと思われるが、そううまく調整できるものではないだろう。実際、預金準備率の引下げを決めた10月8日以降、人民元安圧力が再び高まってきた。こうしたことを繰り返していれば、いずれは人民元の暴落を避けるため、資本規制をさらに強化する必要に迫られる。資本規制には、長期的な成長のために必要な対内外投資を阻害するという大きな副作用があるが、為替相場の安定と金融政策の自律性と自由な資本取引は鼎立しない、という、いわゆる国際金融のトリレンマからは中国も逃れることはできないのである。おそらく中国は、自由な資本取引をあきらめ、自律的な金融政策と為替相場のほどほどの安定を図るのだと思われるが、それでもさじ加減をひとつ誤れば、人民元は急落しかねない。それが他の新興国からの資本流出圧力を一気に高め、2015-2016年の人民元ショックが再燃するリスクは燻る。
【クロワッサン】

次の3年間の経済政策
2018/09/25
安倍3選が決まったが、次の3年間、どのような経済政策が行われるのだろうか。自民党総裁選に際しての一連の首相発言を振り返ると、まず、2%の物価安定目標については、「一つの指標として目指していくが、目的は実体経済、つまり雇用をよくしていくこと」と述べており、固執はしていないことが窺われる。その一方で、新たに打ち出したのが、「生涯現役時代にふさわしい雇用制度の構築」と、「医療・年金など社会保障制度全般に亘る改革」である。つまり、次なる3年間は、雇用改革などによるサプライサイドの強化や、社会保障制度の持続可能性の向上といった、長期的な課題に取り組むということのようである。

一方、財政引締めについては、やはり行われない可能性が高そうだ。財政赤字の温床でもある社会保障制度の改革を掲げてはいるが、例えば年金支給開始年齢を再び引き上げるといった負担を伴う政策は、今のところ議論の俎上にさえ上っていない。来年には統一地方選や参議院選が控えており、痛みを伴う政策を打ち出すのは難しいのだろう。そもそも、これまでの財政に対する姿勢も、一貫して、引き締めより経済成長で解決を図るというものだった。今回も、高齢者の活用や外国人労働者の受け入れ拡大など供給面での拡大を図ると共に、財政・金融政策は緩め続け、拡大均衡を目指すのだと考えられる。

ただ、経済成長で財政健全化を実現するには、少なくともあと数年に亘って、海外経済の拡大や交易条件の改善といった幸運に相当に恵まれ続ける必要がある。世界経済の拡大期間は既に過去の平均を上回っており、これが続くと考えるのは流石に楽観が過ぎる。世界経済がひとたび減速に向かえば、国内景気の減速や円安の修正から、税収は大幅に減少する。財政再建には至らないまま、道半ばで頓挫する可能性の方が遥かに高いだろう。長期政権の今、好況のさらなる長期化という勝算の低い賭けに乗るよりも、不況が到来しても持続可能な社会保障制度を構築する好機と思われるのだが。
【クロワッサン】

燻る人民元ショック再燃のリスク
2018/08/21
昨秋の党大会以降、当局が金融リスク対策を強化した影響で、中国経済は緩やかに減速しているが、こうした中、米国との貿易戦争も深刻化している。米国は7月6日、第一弾として340億ドル相当の中国製品に25%の追加関税を発動したが、8月23日には第二弾となる160億ドル相当の追加関税が予定されており、9月には第三弾として2000億ドル相当の追加関税が課される恐れがある。さらにトランプ大統領は、追加関税の対象を、中国からの輸入総額に匹敵する5000億ドル相当まで広げる可能性にも言及している。

米国が対中強硬路線を続ける背景には、トランプ政権がグローバリゼーションの影響で中間層から転落した人々に支持されていることがある。それ故、支持層への訴求力が強い貿易戦争は、2020年の大統選挙まで政権浮揚のツールにされる公算が大きい。さらに、トランプ氏の意向は別にしても、国務省や商務省、通商代表部も、国家資本主義体制を取る中国の技術覇権や経済覇権を阻止する目的から、対中強硬路線を志向している。さりとて、中国が米国に妥協して経済覇権を断念し、習近平主席が打ち出した「中国製造2025」などの産業政策を引っ込めることも考えにくい。米中間での妥協は相当に困難である。

貿易戦争の収束に目途が立たないため、中国政府はインフラ投資を柱とした経済対策を打ち出しているが、ここで懸念されるのは、人民元安もその一環とされている点である。米国が利上げを続け、中国が金融緩和を進めているため、米中金利差は縮小しており、元々人民元は、厳しい資本規制がなければ暴落しても不思議ではない状態にある。人民銀行は資本規制を徐々に強化することで、緩やかかつ持続的な人民元安を実現しようと試みているようだが、そうしたスピード調整に失敗して暴落する可能性は小さくない。また、緩やかな人民元安を続けることに成功したとしても、今後はそれによって競争力が低下する他の新興国からの資金流出圧力が強まるリスクがある。米国の利上げで、当初はアルゼンチンやトルコなど限られた新興国から資金が流出したが、次第にインドネシアやブラジルなどにも伝播し、貿易戦争の深刻化と共に、アジアなど政治・経済に大きな問題のない国々でも通貨安が頻発するようになっている。トルコショックで新興国通貨が総じて急落したように、国際金融市場は脆弱性を増しており、人民元安が続けば、2015年夏や2016年初頭のような混乱が再燃するリスクもある。
【クロワッサン】

徐々に顕在化する貿易戦争の悪影響
2018/08/07
グローバル製造業PMIは、7月も3ヶ月連続で低下し52.7となった(6月は53.0)。景気拡大・縮小の分かれ目となる50は超えているものの、昨年末をピークに水準は下がり続け、世界経済の拡大ペースが鈍化していることが改めて示唆される。昨年後半の高成長の反動や資源高、人手不足など原因は複数あるが、これらに加え、貿易戦争の影響も徐々に現れ始めてきた。

貿易紛争を巡る緊張は、米中が互いに報復関税を課した7月上旬に一気に高まった後、米欧間で通商交渉再開が決まったことを受けてやや和らいだ。しかし、楽観が広まったのも束の間、足元では、米国が中国への追加関税の税率を更に上げると表明、中国も対抗措置を打ち出し、米中間での応酬が再び活発化している。トランプ政権はグローバリゼーションの余波で中間層から転落した人々の支持を受けており、2020年の大統選挙より前に貿易戦争の幕引きを図るつもりはないのだろう。そもそも対中強硬姿勢には、中国の技術覇権や経済覇権を阻止する目的も含まれている。それ故、トランプ大統領が仮に翻意したとしても、国務省や商務省、通商代表部がこれを翻す可能性は低い。米中間の貿易戦争が収束しなければ、国境を越えたバリューチェーンやサプライチェーンが張り巡らされた現代では、他の国々も影響は免れない。貿易戦争は、今後も世界経済への大きなリスクとなり続けると見られる。

こうした中、渦中の中国では、貿易戦争の深刻化を受け、政策の重心を構造改革から景気対策に移している。シャドーバンキングの規制を緩め、建設中のプロジェクトへの融資を滞らせないよう銀行に指導することなどで、インフラ投資の主体となる地方政府の資金調達を支援することが柱となるようだ。こうした対策によって、景気刺激に即効性のあるインフラ投資は再加速すると見られ、貿易戦争の悪影響はかなり相殺されそうである。しかし、これらの政策は、当局が進めてきた金融リスク対策に完全に逆行するものである。目先の貿易戦争に対応するため、中国はより大きなリスクを溜め込むということだが、こちらもリスクが顕在化した際には、世界経済にも相当な悪影響を及ぼすことになる。
【クロワッサン】

根強いゼロインフレ予想
2018/07/24
インフレが加速する気配が一向に見られない。CPI統計によると、6月の生鮮食品を除くコアは前年比0.8%に留まり、原油高によって押し上げられたエネルギーを除くと、わずか0.2%となった。政府が価格決定に関与する公共サービスは多少なりとも上昇しているが、一般サービスやエネルギー以外の財は低調で、ゼロインフレに近い状況が続いている。

原材料などの輸入物価は2016年秋から上昇傾向が続いており、人手不足の深刻化で人件費にも増加圧力がかかっているが、それでも企業が値上げに踏み切れないのは、ゼロインフレ予想が相当に根強いことが背景にある。企業は顧客が逃げ出すことを恐れ、原材料価格や人件費が増加しても、値上げを行えないのである。販売価格を据え置くことを至上命題する企業は、そのために様々な努力を行っている。即ち、省力化投資や低採算事業の縮小などで生産性向上を図るとともに、人件費を少しでも抑えるため、高齢者や主婦、外国人労働など、賃金水準の低い労働を徹底的に掘り起こしている。値上げ実現のための努力は常に二の次である。

値上げになかなか踏み切れないため、原油高や円安、消費増税など、社会的に値上げが容認される数少ない機会が到来すると、一斉に値上げが行われる。その結果、家計負担が急増し、消費が落ち込み、企業は、値上げをすればやはり顧客を失う、との認識を強めることとなる。日銀はインフレ予想の引き上げのため、副作用の大きい政策を繰り返してきたが、こうしたゼロインフレ予想が変わる兆候は今のところ全く現われていない。
【クロワッサン】

労働供給の限界は近いのか
2018/06/12
少子高齢化にも拘らず、就業者数は大幅な増加が続いている。特に伸びているのは、65歳以上の高齢者と15〜64歳の女性である。いずれも就業率が大きく高まったが、高齢者については、団塊世代が2012年から65歳に達し、人口が増加したことの影響も大きい。こうした人々の多くは非正規雇用となるが、その時給はデフレ以前の好況期に比べるとかなり冴えない。それでも就業者数が大きく増えたのは、@必ずしも働く必要のない高齢者・主婦は賃金の小幅な変動で就業行動を変えやすい傾向があること、Aスマホ・アプリなどを通じ職のマッチングが簡単になったこと、B人手不足があまりに深刻なため、企業が採用要件を引下げ、短時間労働や未経験者の受け入れ態勢を整えたこと、などが背景にある。

とはいえ、団塊世代も昨年から70歳を超え始め、いつまでも現役ではいられない。また、元々働く意欲のあった主婦層は既に職に就き、本来なら就業するつもりがなかった人まで働き始めている。失業者の就業も進み、失職期間1年未満の短期失業率はバブル期並みの低さとなった。長期失業率も2012年から半減している。一般に、失業が長期化すると、人的資本が劣化し、就業が困難になる傾向が強いが、労働需給の逼迫が著しく、長期失業者までもが就業に至るようになってきたようである。

国内の労働力はかなり掘り起こされた感があるが、こうした中で、まだ限界が見えないのが、外国人労働である。この5年間に外国人労働は60万人も増加したが、途上国の賃金は日本の最低賃金を大きく下回るため、日本で賃上げが起こらなくても、規制緩和や受け入れ態勢の整備を進めれば、流入は続く。政府も外国人受け入れのための規制緩和を着々と進めており、6月にまとめる骨太の方針にも成長政略の一環として盛り込む方針である。ただ、途上国から低スキル労働を大量に受け入れる場合、競合する日本の低スキル労働の賃金が押し下げられる点には、留意が必要である。低スキルの外国人労働が増えれば、企業収益にプラスなのは勿論、中スキル・高スキルの労働者にも恩恵があるが、賃金が下がる低スキル労働への所得分配を行わなければ、格差拡大を引き起こすこととなる。
【クロワッサン】

タイトル:今年も値上げの春とはならず
2018/05/22
4月の全国CPI統計によると、生鮮食品を除く総合(いわゆるコア)は前年比0.7%(3月0.9%)と伸びが鈍り、日銀が注目する「エネルギーを除くコア(いわゆるコアコア)」は僅か0.4%(3月0.5%)に留まった。総じて冴えないが、特にサービスが0.3%(3月0.2%)と低調である。診療報酬改定などで、公共サービスは1.0%(3月0.7%)と幾分上昇したのだが、政府が価格決定に関与しない一般サービスについては0.0%(3月0.0%)と全く上がらなかった。日銀が目指す2%インフレは遥か彼方である。

サービス価格の低迷は今に始まったことではない。ただ、昨年来、人手不足が特に深刻な運送業で値上げがどうにか浸透したため、今年こそは他の業種でも、年度始めの4月には、多少の値上げが実施されるのではないか、と期待する向きもあった。しかし、4月末に公表された東京都区部CPIに続き、5月中旬に発表された全国CPI統計も、そうした期待を一蹴する結果に終わった。多くの企業は、顧客が競合相手に逃げることを恐れ、今春も値上げに踏み切れなかった模様である。昨秋以降、ガソリンや生鮮食品など購入頻度の高い財の価格が上がり、個人消費が低調だったことも、企業に値上げを躊躇させた可能性がある。

景気拡大が続いているのに、何故、インフレが加速しないのか。原因の一つは、賃金上昇の鈍さにある。正社員や労組が雇用安定を重視する余り積極的にベアを求めない、という日本特有の労使慣行もあるが、それだけではない。労働需給に敏感な非正規雇用の時給でさえ、ほとんど加速していないのである。これは、高齢者や女性の就労が思いのほか進んだこともあるが、近年は、外国人労働の影響も大きい。外国人労働の大量流入によって労働供給が押し上げられ、それが潜在GDPや潜在成長率を上昇させるため、比較的高い成長でも、需給ギャップがさほど改善せず、それゆえインフレ率がなかなか加速しない、というメカニズムが働いているのである。政府はますます深刻化する人手不足を受けて、技能実習生の滞在を延長するなど、外国人労働の受け入れをひっそりと拡充しており、こうした構図は当分変わりそうにない。足元では、米国の保護主義的な政策や原油高、新興国からの資本流出など、様々な景気下振れリスクが浮上しており、景気拡大局面もそろそろ終盤に差し掛かってきたようだ。賃金上昇やインフレ率が低いまま、次の後退局面を迎える可能性は高まっているように見える。
【クロワッサン】

世界経済の拡大はピークを越えたか
2018/05/09
米国主導の世界同時好況は、そろそろ最終局面に差し掛かってきたようである。グローバル製造業PMIは昨年後半に大きく上昇したが、今年は年初から低下し、4月にようやく下げ止まった。下がったとはいえ水準は高く、拡大局面が続いていることに変わりはないのだが、成長のモメンタムは明らかに鈍りつつある。これは、天候など一時的な要因だけによるものではない。長い間、景気拡大が続いたことで、世界各国に残っていた経済の「弛み」が解消され、急ピッチでの成長を続けるのが難しくなってきたのだと見られる。例えば、世界的な需給ギャップの解消から資源価格が上がりやすくなり、足元では、地政学リスクも相俟って原油高が企業のコストを押し上げている。先進国では人手不足によって増産が難しくなる国が現われ、企業や家計の支出を刺激していた超低金利や株高も修正されつつある。既に成長のピークは過ぎ、大きなショックが発生しなかったとしても、景気拡大は1〜2年のうちには終焉するだろう。

一方で、下振れリスクはますます増えている。最大のリスクは中間選挙を控えたトランプ政権の保護主義路線だ。貿易戦争に至らないとしても、貿易取引や投資の不確実性が高まれば、企業のセンチメントが悪化し、投資は抑制される。それが景気拡大の終焉を前倒しで終わらせるリスクは十分にあるだろう。ただ、こうした中で、意外に下支えとなりそうなのが中国である。中国自身、過剰債務や不動産バブルなど様々な問題を抱える上、米国の保護主義的政策の最大の標的となっているのだが、これによる景気の悪化を見越し、当局は従来の構造改革路線から景気刺激路線へと、早くも舵を切り始めたようである。たとえば、3月末には市場金利を押し下げ始め、4月には預金準備率を引き下げ、5月には増値税の大規模減税を打ち出した。景気下振れリスクが現われた途端に構造改革を放り出して景気を全力で支えていては、改革は一向に進まないが、少なくとも目先は、中国が世界経済の下支えとなる可能性がありそうである。
【クロワッサン】

中国経済に新たな過剰の芽
2018/04/23
中国の3月の経済統計を見ると、インフラ投資を中心に固定投資は鈍り、生産も減速気味だが、個人消費はやや持ち直してきた。中国経済はおおむね底堅い推移が続いている様子である。同国では、短期的には景気を下押しするシャドーバンキング対策や過剰な生産能力の削減、不動産バブル対策、環境対策など構造改革が続けられているが、今のところ、景気が急減速する兆しは現われていない。これは、改革によって景気が失速しないよう、数々の目配りが続けられているためだろう。4月には人民銀行が預金準備率の引き下げを打ち出した。米国との貿易摩擦は予断を許さないものの、今のところは、中国政府は景気の急減速を回避することにうまく成功しているようである。

もっとも、景気に配慮し過ぎると、改革が十分に進まないリスクが高まるのが悩ましいところである。固定投資が低調な中でも、日本から中国への資本財輸出は大幅に増加しているが、この背景には、中国政府が国内でサプライチェーンを完結すべく、半導体産業の育成に多額の資金を投じ、IT関連投資が急拡大していることがある(「中国製造2025」の一環である)。地方政府の間では、IT関連企業の誘致合戦も見られる。かつては、地方政府の指導部が自らの人事評価を高めるために、インフラ投資を積み増し、成長を高める熾烈な競争を繰り広げていたが、成長率の高さより質を重視する意向を明示する習近平指導部の下で、そうした動きは収束し、代わりに起こったのが、この国家主導のIT投資ブームなのだろう。これが景気をサポートする大きな要因ともなっている。ただ、中央政府の意を汲み、地方政府が一斉に同じ方向を向いて投資を行えば、新たな過剰設備が積み上がるリスクは高まる。将来的には、ローエンドの半導体を中心とした、新たな供給過剰問題が引き起こされる可能性がある。
【クロワッサン】

意外に大きい働き方改革の影響
2018/04/10
厚生労働省の毎月勤労統計では、1月確報より、調査サンプルの大幅な入れ替えが行われた。単なる定期的な統計のメインテナンスである。ただ、入れ替えの影響を把握するための参考として、継続して調査対象となっている事業所だけで作成された試算値が合わせて公表されたことで、意外な事実が明らかになった。昨年の残業時間が、同一事業所サンプルで見ると、減少しているのである。公式統計では、過去数年の傾向に反して増加していたが、どうやらそれは、サンプルの入れ替えに伴う統計の誤差であったらしい。

2017年といえば、1%弱と言われる潜在成長率を大きく上回る1.7%もの経済成長が達成された年であり、人手不足も深刻だった。そうした中で、何故、残業時間が減少するのだろうか。一つには、少子高齢化で働き盛りの男性正社員が減少し、労働時間が短い高齢者や女性の就業が増えたことがある。ただ、高い成長だった昨年でさえ残業時間が減った背景には、働き方改革の機運が高まったことも影響した可能性がある。長時間労働の是正を図り、またそれを実現するため、業務を分散すべく短時間労働者を雇ったことが、一人当たりで見た残業時間の減少に繋がったのだと思われる。こうしたことは、多かれ少なかれ起こっていると元々推察されてはいたが、公式統計ではサンプルによる上振れが生じたことで、その影響がかき消されてしまっていた。働き方改革の関連法案が今国会で成立するかどうかは雲行きが怪しいが、民間企業の間では、マクロ経済に影響を及ぼすほどの変化が着実に起こっているようである。
【クロワッサン】

ステルス値上げが示す企業の値上げ嫌い
2018/03/28
2月のCPI(生鮮食品を除く総合)は3年半ぶりに1%の大台に乗ったが、その半分はエネルギー価格の上昇によるものだった。国内のインフレ圧力は未だ鈍い。原因の一つは、持続的な物価上昇に繋がる賃金上昇が鈍いこと、もう一つは、値上げを極端に嫌がる企業心理である。販売価格を上げれば競合他社に顧客が逃げ、売上が落ちるとの恐れは相当に根強い。後者を象徴するのが、「ステルス値上げ」だ。SRI一橋大学消費者購買部指数によると、POSデータを用いて算出した価格指数は2017年に0.1%下落したが、内容量などの変化を調整した単価指数は0.7%と小幅ながら上昇していた。両者の乖離が、表示価格を上げずに内容量を減らす実質的な値上げ、いわゆる「ステルス値上げ」である。

企業は90年代後半以降、原材料や物流などのコストが嵩む局面では、人件費を削ることによって他のコストを吸収してきた。しかし、労働需給の逼迫でそれが難しくなり、代わりに内容量を減らす実質値上げが行われている。高齢化や世帯人員の減少で内容量の少ない商品への需要が高まっていることとも合致しているのだろう。ただ、こうした「ステルス値上げ」が反映されれば、CPIはもっと上昇しているとの議論も耳にするが、それは誤解だ。CPI統計や小売物価統計では、調査対象となる品目の数量や重さ、大きさ、銘柄などを指定した調査がかなり多い。上述の単価指数は容量が調整されているが、そこから更に品質なども調整され、「ステルス値上げ」はかなり捕捉されているのである。それでもCPI統計が示すインフレ率が低いのは、シンプルな話で、サービスなどの価格が伸び悩み、実際のインフレ率が低いからである。ちなみに、3月12日の週のSRI価格指数は前年比0.0%、単価指数はマイナス0.1%であり、足元では「ステルス値上げ」さえ進んでいない。円安の影響で食品などの値上げが繰り返された2014年〜2015年には両者の乖離が大きく拡大していたが、現在はそうした動きさえ見られない。
【クロワッサン】

世界経済の拡大はまだ継続するのか
2018/03/14
昨年後半、世界経済の成長ペースは一段と加速した。各国でかなり高い成長が達成されたため、年明け以降はその反動が現われ、幾分ペースダウンすると見られるが、拡大基調が完全に崩れることはない。これが筆者を含め、世界経済に対する大方の見方だろう。ただ、世界経済の牽引役の一つであった株高が、2月初旬以降、動揺するようになってきたのも事実である。原因の一つは、秋の中間選挙に向け、米トランプ政権が支持率回復のための政策を相次いで打ち出していることだ。昨年末には、米経済が完全雇用の状態であるにもかかわらず、異例の大規模減税を成立させ、その後も巨額のインフラ投資計画が模索されている。拡張的な財政政策の実現に金融市場は反応し、インフレ懸念から長期金利が上昇し始め、株価を動揺させている。また、年明けからは、太陽光パネルなどへのセーフガードを発動、続いて鉄鋼やアルミの輸入関税を導入するなど、保護主義的な政策が立て続けに導入されている。こうした政策が今後も推し進められるとすれば、各国の報復を招き、世界貿易が萎縮、世界経済が失速するのは間違いない。また、輸入関税によって米国ではインフレ圧力が高まるが、それは長期金利の上昇、ひいては株安に繋がる。実際には、それほど効果の大きい輸入制限が取られない可能性も十分にあるのだが、そうした懸念が広がるだけで、不確実性の高まりが企業のセンチメントを悪化させ、株安や投資抑制に繋がることはあり得る。今のところ、多くの国の内需・外需は揃って堅調で、深刻な過剰問題を抱えている国も少ないことから、世界経済が直ちに失速することはないと思われる。しかし、終わりの始まりは見えてきた、というところだろう。
【クロワッサン】

生鮮食品高、再び
2018/02/13
年初まで個人消費を取り巻く環境は改善していた。まずは、バブル期以来の労働市場の需給の逼迫を受け、失職懸念がすっかり後退、そこに株高も加わり、消費者センチメントが高水準で推移していた。また、高齢者や女性の就労で世帯ベースの収入が緩やかに増加し、これも追い風となった。しかし足元では、雲行きが急速に怪しくなっている。

始めに起こったのは、ガソリンや灯油などエネルギーの価格上昇だった。昨秋来の原油高で値上げが始まり、現在も上昇傾向が続く。さらに12月頃からは、天候要因による不作で生鮮野菜や果物の価格が急騰、2月に入った現在も高止まりが続いている。生鮮食品高は2016年11月にも起こったが、当時は11〜1月頃にかけて消費が抑制された。今回は1〜3月にかけて悪影響が現われそうである。これらに加え、例年以上の寒さも消費を下押ししたと見られる。通常、冬らしい寒さは衣料品を中心に冬物商材への需要を高め、消費にはプラスに働くことが多い。しかし今回は、昨秋来、気温が低い状態が続き、秋冬物の購入が前倒しで進んだため、冬物商材に対する需要がこれ以上大きく喚起されることはなさそうである。むしろ、低すぎる気温や大雪が仇となり、外出を控える人が増え、それが消費の抑制につながると見られる。1月の景気ウォッチャー調査でも、家計関連の景況感は軒並み大きく悪化していた。ちなみに、同調査が実施されたのは、株高が続いていた1月下旬であり、2月の株価の急落の悪影響は織り込まれていない。1-3月期の消費は冴えない結果に終わり、春先まで悪影響が残る可能性もありそうだ。
【クロワッサン】

世界貿易のリスク
2018/01/30
昨年後半、日本の実質ベースの輸出は大幅に増加した。最も好調なのは電気機器であり、春先に調整したスマホ関連の需要が急伸し、牽引役となった。また、一般機械も世界的な資本財需要の拡大を受けて大きく伸び、輸送用機器も欧州向けや中国向けが堅調である。輸出が好調なのは日本に留まらない。世界的に輸出入が拡大し、これが相互に成長を高める構図となっている。2011年から2016年半ばには、世界の貿易取引が世界のGDPの伸びを下回り、スロー・トレードと呼ばれて注目されたが、今では貿易量の伸びが再びGDPの伸びを上回っている。

世界貿易が復調した背景は何か。最大の理由は、バブルの後遺症に悩まされていた新興国経済が、2016年夏頃から持ち直してきたことである。これに加え、先進国でも緩和的な金融環境を追い風に株高が続き、家計や企業の支出を押し上げ、成長が加速した。iPhoneXの不振など懸念材料はあるが、世界経済の拡大を追い風に、日本の実質輸出は総じてみれば増加傾向が続きそうである。

輸出の見通しは当面は明るいように見えるが、一つ懸念されるのが、秋に中間選挙を控え、トランプ政権が保護主義的政策を実行に移し始めたことである。1月下旬には太陽電池などを対象にセーフガードを発動し、これに反発した中国・韓国がWTOへの提訴を表明する事態に発展している。NAFTA交渉も混迷し、落としどころが見えない。中国との関係悪化やNAFTA脱退が現実味を帯びれば、貿易相手国は勿論、米国自身も株安やビジネス・センチメントの悪化を通じ、悪影響を被るのは必至である。保護主義的政策の応酬が強まれば、日本がその槍玉に上がらなくても、世界貿易は再び萎縮し、日本経済に大きな打撃を与えるリスクがある。
【クロワッサン】

意外に増加する労働力
2017/12/26
有効求人倍率は1.56倍と1974年1月以来の高水準を記録し、新規求人倍率は2.37倍と過去最高を更新した。人手不足が深刻なため、企業は待遇の良い正社員の採用を積極的に増やし、正社員の有効求人倍率も1.05倍と過去最高を更新した。失業率も2.7%と1993年11月以来の低水準である。労働需給が逼迫していることは間違いない。

ただ、水準は極めて低いものの、失業率の下がり方は、実は鈍い。日本の潜在成長率は1%弱と言われるが、今年に入ってから日本経済はその倍以上である年率2%超の速いペースで成長しており、さらに、少子高齢化で働き盛りの年齢層の人口も減っているのだから、本来なら、失業率が大きく低下しても不思議ではない。しかし実際には、失業率は今年2月に2.8%へと低下した後は、概ね横ばいで、前述のように11月も2.7%とほとんど下がっていないのである。これは、労働供給が意外なほど増えていることが背景にある。11月も就業者数は15万人も増加していた。人口減でも就業者が増えるのは、高齢者や女性の就業が活発化していることもあるが、これに加え、外国人労働者が増加していることも大きく影響している。人数の多い団塊世代が70歳を超え始めたこともあり、高齢者の就業者はそろそろ増加ペースが鈍ってきそうだが、女性と外国人の就業はまだ増加する余地があり、労働需給の逼迫を多少なりとも和らげる可能性がある。
【クロワッサン】

ネット販売の拡大が抑えるインフレ上昇
2017/12/12
10月の全国CPI統計によると、CPIコア(生鮮食品を除く総合)は前年比0.8%(9月0.7%)と小幅ながら上昇した。ガソリンなどエネルギーが伸びを高めたことが背景にあり、残念ながら、日銀が注目する新型コア(エネルギーを除くコア)は0.2%と前月から変わらなかった。全国に1ヶ月先駆けて公表される11月の東京都区部CPIから判断すると、11月の全国も10月と同じ0.8%に留まりそうである。景気拡大が長期化しているが、物価は相変わらず冴えない。

この最大の原因は、CPIの半分強を占めるサービスの価格の低迷である。年度下期が始まる10月には、外食チェーン大手や宅配最大手が値上げに踏み切ったが、それでもCPIサービスは0.0%と上昇しなかった。労働需給に敏感に反応する非正規雇用の時給は前年比2%台半ばのペースで上昇し、外食や宿泊、運輸など労働集約的な産業では人件費の増加が深刻な負担となりつつあるのだが、販売価格にそれを転嫁する動きは未だに限定的である。

日本のインフレは確かに上がりにくいとはいえ、現在のように労働需給の逼迫が続けば、我慢の限界を超え、値上げの動きが急速に広がることも起こり得る。そうした動きがなかなか始まらない背景には、ネット販売と既存店舗との競争が激化していることもある。日本のネット販売の利用は諸外国に比べればまだ低調だが、ここにきて急速に拡大している。その結果、家電や衣料品を始め、多くの財に影響が広がり始めており、実店舗の値上げを難しくする一因となりつつある。先行研究によると、日本は米欧や中国などに比べ、実店舗よりネット販売の方が割安なケースが多いとされるが、ネット販売の利用世帯が増えるにつれ、実店舗の価格が抑制される形で、価格差の縮小が進むと見られる。実店舗の受難の時代と低インフレの時代はまだ続きそうである。
【クロワッサン】

外国人労働は人手不足の切り札となるか
2017/11/21
日本の就業者数は2012〜2016年の4年間で185万人増加した。この間、少子高齢化の進展で、生産年齢人口と呼ばれる15〜64歳の人口は390万人も減少しており、これだけ就業者が増えたのは快挙といえる。ただ、就業者が増えた最大の要因は、2012年に65歳を超え始めた団塊世代が、その前の世代に比べて働き続けたことだった。そして、その団塊世代は2017年には70歳を超え始め、そろそろ健康上の理由からも、労働市場からの完全な引退を考える人が増えてくることとなる。今後も女性の労働参加は増えると期待されるが、団塊世代の引退が広がり、高齢者の就業が増えにくくなったとき、日本の労働供給はどうやって賄われるのだろうか。

今のところ、その解の一つは外国人労働者となりつつあるようだ。外国人労働者は過去4年間に40万人も増加し、就業者数の増分の実に22%を占めている。外国人労働に対する日本政府の方針は、「高度人材は歓迎、単純労働はお断り」というものだが、実際には、留学生制度や技能実習生制度を利用して、単純労働に従事する目的で入国する外国人は後を絶たない。深刻な人手不足を背景に政府もそれを歓迎している節がある。とはいえ、抜け穴的手法で就労する外国人の労働環境は劣悪なことが多い。諸外国からも強く批判されており、放置すれば、日本で働くことの魅力が失せ、流入が滞る可能性がある。外国人労働は、経済的見地だけで論じることのできない問題だが、なし崩し的に黙認するというスタンスを取り続ける限り、将来的にも安定した労働供給と考えることはできない。
【クロワッサン】

党大会後の中国景気
2017/10/24
今年、中国では国を挙げて景気対策が実施された。これは、人事が刷新される5年に1度の共産党大会に合わせ、好景気を創り出すためである。インフラ投資を中心とした景気刺激を繰り返し、目先の成長に悪影響を及ぼす構造改革は極力先送り、金融市場の安定のために規制を強化した甲斐あって、党大会で報告された7−9月期のGDPは前年比6.8%と、政府目標の6.5%を上回る高い伸びを達成することとなった。折しも海外景気も好調であり、中国経済は堅調に推移している。

しかし、その共産党大会は10月24日に閉幕した。「兎にも角にも景気優先」の季節は終わり、いよいよ過剰なレバレッジや不動産対策、環境問題など長期的な課題への取り組みが本格化されるとの声もある。それに伴い、景気の急減速を懸念する向きもあるようだ。ただ、政権運営にとっても最も重要なのは、常に景気の安定である。党大会が終われども、景気失速回避が最重要課題であることに変わりはない。足元の成長率が高いため、庶民の不満が強い不動産バブル対策や公害対策などの改革は多少進められると見られるが、景気減速が鮮明化してくれば、これらの改革も直ちに抑えられる公算が大きい。実際のところ、中国では過去に何度も不動産バブル対策が打ち出されてきたが、景気が減速を始めた途端に、骨抜きにされてきた経緯がある。今回は違うと言える理由は見当たらない。結局、党大会後も、景気を下押しするリスクを伴う構造改革は貫徹されず、インフラ投資による景気のサポートもある程度は続けられるのではないか。それ故、脆弱性を抱えつつも、中国経済は当面、堅調を維持すると見られる。
【クロワッサン】

金融緩和でタガが外れる財政規律
2017/10/10
9月28日の衆院解散以来、政局の変化が目まぐるしい。一時の大混乱はどうにか収まり、各党の政策や公約にも目が向き始めてきたが、どうやらいずれも問題含みである。まず、各党とも現役世代・将来世代への社会保障を手厚くすると謳うが、その財源については曖昧である。また、2019年10月に予定される消費増税については、凍結か使途の組み替えかが争点となり、予定通り借金返済に充てると主張する党はない。いや、厳密に言えば、消費増税を行うのは、現状の社会保障制度の維持にさえ財源が不足しているためであり、増税分は、既存の債務を減らすというよりは、新規の借入を抑えるために充当される予定だった。つまり、債務残高ではなくプライマリー赤字を削減するための財源である。これを凍結ないし転用するということは、赤字国債を増やし、将来世代につけを回すということに他ならない。将来世代への歳出のために、将来世代の借金を増やしていたのでは、本末転倒である。高齢者に偏る現行の社会保障制度を現役世代・将来世代にも広げることは確かに重要な視点だが、政治的に不人気な増税ないし歳出削減で財源を手当てしないのであれば、ただのバラマキに終わってしまう。

財政規律がこれだけ緩むようになった原因の一つは、やはり日銀の金融政策なのだろう。日銀が長年にわたって超低金利政策を続け、さらに近年では長期金利の抑制まで始めたことで、財政規律が崩れても、市場は一切の警報を鳴らさなくなった。どれだけ借金を増やしても金利は決して上がらないとの慢心が、政治家に止めどもないバラマキを許しているように思われる。
【クロワッサン】

広がる世界経済拡大の恩恵、懸念は持続力
2017/9/26
グローバルサイクルは回復基調を強めており、OECDは世界経済の見通しを、2017年3.5%、2018年3.7%へ上方修正した。これは、2011年以降で最も高い成長率である。また、春先に調整していたITデジタル・サイクルも、iPhone新製品や年末商戦向けのスマホ需要の拡大も加わり、復調しつつある。こうした中、日本の輸出も再び増勢が強まってきた。日本銀行試算の実質輸出を見ると、8月は前月比3.0%と大きく増加、その水準は、リーマンショック前の2008年3月以来の高さとなっている。8月の輸出を押し上げたのは、米国向けの自動車や関連部品、スマートフォン用などアジア向けの半導体などであり、前者については、米国内の自動車販売が減少気味なことを考えると、拡大は続かないかもしれない。しかし、後者の半導体を含む電気機器は、年末商戦向けの需要拡大も加わって、さらなる増加が見込めそうである。また、資本財や素材など、それ以来の財も好調な世界経済が追い風となりそうだ。日本経済は輸出にサポートされ、当面は回復基調が続くと見られる。

但し、世界経済の拡大を支える要因の一つは、世界的に緩和的な金融環境であり、これは既に変わり始めている。まず、FEDのメンバーの多くは年内に追加利上げを行うことを想定しており、ECBも10月にはQE縮小に向けた動きを示すと見られる。カナダは既に2会合連続で利上げを実施しており、英中銀も今後数ヵ月以内に利上げをしたいとのシグナルを発している。米国を始め多くの先進国は、景気が好調であってもインフレが低く、それ故、金融引き締めのペースは緩慢に留まる公算が大きい。したがって、長期金利は上がらず、国内経済への引き締め効果は限定的で、同時に、新興国から資金流出を引き起こすことにも繋がっていない。とはいえ、こうした状況がいつまでも続くわけではない。米経済は既に完全雇用に到達しており、ユーロ圏も回復基調を強めているため、今後も引き締めを続けていくことは避けられないと見られるが、先進国とは対照的に、新興国・資源国は、最悪期こそ脱したものの、景気は未だ脆弱で、多くの国は巨額の外貨建て債務も抱えている。世界的に金融環境が引き締め方向に向かう中、それらの国の景気がいつまで耐えられるのか、今後より注意が必要になってくる。
【クロワッサン】

残業規制で所得は大きく減るのか?
2017/9/12
働き方改革法案が秋の臨時国会に提出される。同法案には、残業時間の上限を月60時間とする規制も盛り込まれるが、これが実現すれば、残業代が失われ、家計の所得が激減すると懸念する向きもあるようだ。実際にどの程度の影響があるのか、以下、概算してみた。まず、月間の所定内労働時間は平均133時間であり、60時間以上残業すると、就業時間は193時間を超える。これに該当する雇用者は全体の2割程度であり、60時間を超過する残業時間が全体に占める割合も2割ほどである。マクロベースで考えると、年268兆円の雇用者報酬のうち、6%強が残業代であり、残業時間ひいては残業代が2割減れば、268兆円×6%×2割=3兆円強、雇用者報酬の1.2%相当額が減少することとなる。激減とまでは言えないが、やや大きめの額ではある。

もっとも、この残業時間は労働者の自己申告ベースであり、サービス残業が含まれている。残業時間が60時間を超える人はサービス残業も相当に多いと見られるが、サービス残業がいくら減っても、所得は減らない。また、60時間超の残業によって支えられていた業務の一部は、残業時間が60時間に満たない他の社員によって肩代わりされ、新たに雇われた人によっても担われることとなる。そうした人々に残業代や賃金が支払われれば、60時間超の残業が減ったことで失われた所得の一部が相殺される。これらを考えると、実際の家計の所得の減少は意外に少ないものとなりそうだ。サービス残業が減る一方で、所得がさほど減らないのであれば、時給は上がる。むしろ朗報と感じる労働者も多いかもしれない。
【クロワッサン】

スイート・スポットにある新興国経済
2017/8/8
米景気が拡大する中、欧州では回復基調が強まり、日本でも潜在成長を上回る成長率が続くなど、先進国経済は好調に推移している。先進国に牽引され、世界の鉱工業生産の拡大ペースは実に昨年の2倍となった。一方、こうした回復にも拘らず、先進国のインフレ率や賃金の伸びは鈍い。このため、いち早く金融政策を引き締めに転じた米国でも利上げのペースは緩慢で、ユーロ圏はドイツなどから批判の多い量的緩和の縮小を年内に打ち出せるかどうかといったところ、日本に至ってはゼロインフレで将来の引き締めを検討することすら遠い夢となっている。かくて先進国の好況にも拘らず、世界にマネーは溢れている。

この恩恵を最大限に受けているのが新興国である。資源バブルや新興国バブルの後遺症に悩み、近年まで低成長が続いていたが、国内で過剰債務などの調整が進む中、好調な先進国経済と緩和的な金融環境が大きな追い風となってきた。また、米国が利上げを始めてもそのペースが鈍いため、ドル安気味となっている。これは、新興国へのグローバルな資本流入を促すと共に、ドル建てで取引されるコモディティの価格を押し上げ、資源国の交易条件を改善させることにもつながっている。さらにドル安は、米ドルと人民元を事実上ペッグさせる中国経済の動揺を抑える効果もあるが、資源消費大国である中国の安定は、他の新興国、資源国の経済にも大きなプラスである。もっとも、先進国景気が一段と過熱すれば、インフレ率が上昇しなくても、行き過ぎた株高など金融不均衡のリスクが高まってくる。そうなれば、各国中銀は引き締めを強化せざるを得ないだろう。新興国は今、スイート・スポットにあるが、それは絶妙なバランスの上にあり、いつまでも続くものではない。
【クロワッサン】

上向く製造業循環、高まる人民元リスク
2017/7/25
世界の製造業循環は、昨年後半から今年年初にかけて回復基調を強めた後、しばらく足踏みが続いた。これは、中国が春先に過剰なレバレッジなどの対策を強化したことに加え、iPhone7 の効果一巡や中国における中低価格帯スマホの在庫調整から、ITデジタル関連の需要拡大が一服したことが背景にあった。しかし足元では、欧米で堅調な景気の回復が続く中、懸案の中国は拡張財政にサポートされて失速を回避し、ITサイクルにも再加速の兆しが現われてきた。既にIT産業が集積する台湾では、iPhone8関連の部材などの出荷が本格化しつつあり、夏場以降は年末商戦に向け、スマホの新製品に関連した需要が全般的に拡大してくる公算が大きい。ITデジタル関連の世界的な需要の拡大は今後も継続し、グローバル・サイクルの回復のモメンタムは強まりそうである。

もっとも、景気が堅調であるならば、各国の中央銀行は金融引き締めを強化することとなる。実際、既に緩やかな利上げ局面にある米国に続き、カナダも7月に利上げを実施、イングランド銀行は早期の利上げを示唆し、ECBは量的緩和の縮小を模索するなど、先進各国で金融引き締め方向に動き出す中銀が増えてきた。問題は、こうした影響が新興国、特に中国にも及ぶことである。中国はこれまで、米ドルと人民元を事実上ペッグしてきたが、それを維持するため、資本規制を強化すると共に、米国と同じかそれ以上に金利を引き上げてきた。今後、米国が引き締めを強化すれば、為替相場を維持するために、中国は更に金利を引き上げる公算が大きい。しかし、中国経済は米国と異なり、過剰問題を抱え、何とか財政で景気を下支えしている有様で、金利上昇に実体経済がいつまで耐えられるかはわからない。グローバル景気が明るさを増しているのは朗報だが、それがもたらす先進国の利上げが、中国人民元の問題を再燃させるリスクがある。
【クロワッサン】

ようやく明るい兆しの見えてきた賃金動向
2017/6/13
賃金上昇が鈍いと言われ続けているが、4月の現金給与総額は前年比0.5%と比較的高い伸びを示した。このうち、所定内給与は0.4%と2ヶ月ぶりにプラスに戻ってきた。これは、パートタイム労働者の所定内給与が1.0%と上昇した影響である。ここまでの数字は月給ベースだが、時給換算すると、パートタイム労働者の所定内給与は2.7%とかなり高い伸びとなる。過去、リーマンショックなどで労働時間が激減し、時給が急上昇したことはあるが、比較可能な1994年以来、好況期にこれを上回る伸びが観察されたことはない。4月の有効求人倍率は1.48倍と、バブル期のピークを超え、1974年2月以来の高水準に達しており、極めてタイトな労働需給が、パートタイム労働者の時給を押し上げている。

一方、一般労働者の所定内給与は0.0%と引き続き冴えない。単純に時給換算しても0.4%と、パートタイム労働者よりかなり低い伸びである。正社員が含まれる一般労働者の賃金上昇が鈍い理由は複数あるが、とりわけ影響が大きいのは、大企業を中心とする終身雇用的な制度の下にある組合や従業員が、ベースアップを必ずしも強くは求めていないことだろう。ベアで固定費が増加すれば、業績悪化につながり、安定した雇用維持に悪影響を及ぼす懸念があると考え、必ずしも賃上げに積極的ではないのである。今年度の春闘も、事前予想こそ上回ったものの、昨年並みの0.3%程度に留まり、加速は見られなかった。とはいえ、転職が多い中堅・中小企業の賃金は、労働需給により敏感に反応する。人手確保のため、今年の春闘でも大企業を上回る賃上げ率で妥結する企業が複数現われてきた。今後はパートタイム労働者に続き、中堅・中小企業の一般労働者の賃金が徐々に伸びを高めそうである。賃金上昇が加速するのは、そう遠くない話かもしれない。
【クロワッサン】

一段と逼迫する労働需給
2017/5/30
4月の完全失業率は2.8%と3ヵ月連続で横ばいだった。これは、1994年6月以来の低い水準である。内訳を見ると、より良い就業機会を求めて転職する人が増え、失業率の分子である失業者が2万人増加したが、分母である労働力人口も増加したため、失業率の悪化が避けられている。就業者が女性を中心に増加していることを考慮すると、内容は3月よりむしろ良好といえるだろう。ただ、月によって振れはあるものの、労働力人口のトレンドは昨年後半から頭打ちとなってきたようにも見える。これまで労働力人口は、高齢者や主婦など労働市場から退出していた人々の就業が進んだことによって、少子高齢化にも拘らず増加していた。しかし、意欲のある人の多くが既に職に就く一方で、一番の牽引役だった団塊世代が今年から70歳に到達し、健康面から引退する人が徐々に増えつつある。このため、労働力を増やすことは限界に近づきつつあるのかもしれない。主婦や高齢者など労働時間の短い労働者の増加によって、一人当たりの平均労働時間が減り続けているため、総労働投入(一人当たりの総労働時間×就業者数)は元々ほとんど増えていない。労働力人口の増加に歯止めがかかってくれば、総労働投入は維持することさえ困難になり、人手不足に拍車がかかることとなる。

労働需給が極めて逼迫していることは、求人動向からも改めて確認される。4月の有効求人倍率は1.48倍と、ついにバブル期のピークをも上回り、1974年2月以来の高水準となった。有効求人数が前月比0.7%2ヵ月連続で増加する一方で、有効求職者数はマイナス1.6%と3ヶ月連続で減り続けている。人手不足で既存のサービスを縮小せざるを得ない企業も現われており、労働移動の多い非正規や中小企業を中心に、賃金上昇圧力はより高まっていくと見られる。
【クロワッサン】

アクセルとブレーキを踏む中国
2017/5/16
年明け以降、中国の地方政府は景気対策に本腰を入れており、2017年1Qの成長率は政府目標を上回るほど加速した。ところが、失速リスクが後退したと見た中央政府が、今度は過剰なレバレッジや不動産バブルの抑制に乗り出したため、4月はこの影響でやや減速したようである。景気や構造問題のバランスを取るべく、中国当局はブレーキとアクセルを踏んでおり、やや神経質に見えるが、この背景には、今秋に重要人事を決める5年に1度の共産党大会が控えていることがある。党大会に向けて、景気安定、国内金融市場の安定を演出するため、中央政府も地方政府も躍起になっているのである。

ただ、これらを同時に安定させるのは、今の中国では至難の業である。国内金融市場の安定を目指して、過度なレバレッジの解消やシャドーバンキング対策、バブル対策を続ければ、その影響で景気は下押しされる。最優先課題は、目先の景気の安定であるため、景気減速の兆候が現われれば、過剰問題への対応は打ち切らざるを得ない。ちなみに、人民元相場の安定も掲げられているが、為替介入で人民元相場の安定を図れば外貨準備がさらに減少し、国内金利の上昇で対応しようとすれば、景気を冷やす恐れがある。結局、中長期的には弊害の大きい資本規制が中心とならざるを得ない。資本規制は、企業活動を阻害し対内外の投資を縮小させる上、余剰資金を国内に溢れさせ、不動産などのバブルを助長させるが、短期的な景気の下振れには繋がらないためである。中国は兎にも角にも党大会まで景気の安定を保つと見るが、その代償は小さいとは言い難い。
【クロワッサン】

春闘は意外に堅調
2017/4/11
今年度の春闘の回答平均は2.05%と、2016年度の2.10%に迫るものだった(3月29日時点の連合集計)。2.05%のうち1.8%程度は定昇部分で、いわゆる賃上げに該当するベアは0.25%前後程度と見られる(昨年は0.3%)。耳目を集める大企業製造業の昨年度の業績が円高で冴えなかったため、当初、今年度のベアは昨年を下回るとの見方が大勢を占め、ベアゼロを予想する向きさえあったのだが、意外にも健闘しているようである。また、今年の春闘では、大企業を上回る賃上げを受け入れる中小企業も散見された。

元々、大企業は終身的な雇用形態の従業員が多いため、経営者や株主のみならず、従業員自身やその利益を代表する組合自身が固定費の増加につながるベアを強く要請しない傾向がある。しかし、労働移動が比較的多い中小企業では、人材を引き止める必要があるため、賃金は労働需給により敏感となりやすい。日々の報道でも確認されるように、人手不足で既存事業・サービスの継続さえが困難になる企業が増加しており、その一方で、待遇改善を求めて転職する人は増加している。中小企業の賃上げは始まったばかりだが、広がりを見せるのは時間の問題だろう。

とはいえ、人件費の増加で収益が圧迫されれば、企業はいずれ販売価格を引き上げることとなる。2014年頃から円安を理由に値上げを実施するケースが増えてきたが、これは、円安だけが理由ではなかった。人件費が増加してきたからこそ、円安による値上げが避けられなくなったのである。かつては円安が進んでも、人件費を抑えることでコストを吸収し、値上げを見送る企業が多かったが、今後、円安や原油高が進む事態となれば、インフレ率は思いのほか速いペースで上昇してくる可能性がある。
【クロワッサン】

財政規律が緩むユーロ圏
2017/3/21
ユーロ圏では、雇用・所得環境の改善が続き、新興国の持ち直しやユーロ安で輸出も増加、景気回復のモメンタムが強まっている。こうした中、原油市況の反発と相俟ってインフレ率は2%まで上昇し、ECBは年明けにも資産購入プログラムの減額に踏み切るとの見方が広まってきた。もっとも、金融政策が引き締め方向に向かう一方で、財政支出は拡大傾向となる可能性が高そうである。これは、選挙の季節を迎える欧州各国で、拡張財政を好むポピュリスト政党が躍進していることが背景にある。ポピュリスト政党が必ずしも政権入りする可能性が高いわけではないが、既存政党がそれに対抗すべく、財政に頼る傾向が見られる。

今年初の主要選挙はオランダ下院選だったが、事前予想に反し、極右の自由党はやや失速、第一党にならなかった。とはいえ、4-5月には国際社会への影響が遥かに大きいフランス大統領選が控える。最新の世論調査によると、無所属のマクロン前経済産業デジタル相が首位(支持率25.5%)、僅差で極右・国民戦線のルペン党首(25.0%)、中道右派のフィヨン元首相(17.5%)、社会党のアモン氏(13.5%)、左翼党のメランション氏(13.0%)がこれに続く。これらの候補は、マクロン氏を除くすべてが、財政赤字がユーロ圏の定めるGDP比3%の基準を当面上回ることを容認している。また、マクロン氏も将来の財政改善は高い成長を前提としており、多かれ少なかれ、フランスの財政は拡張方向に舵が切られる可能性が高そうである。さらに、インフレと共に拡張財政を毛嫌いしてきたドイツにも変化の兆候が見られる。9月に連邦議会選挙が行われるが、財政拡張に肯定的なシュルツSPD新党首が今やメルケル首相を上回る支持を集めているのである。米国は、トランプ政権下で、金融引き締め・拡張財政のポリシーミックスが選択されたが、ユーロ圏も程度はかなり落ちるものの、同じ方向へと向かいつつある。為替相場は現在、やや円高気味だが、欧米の政策で円安に振れるリスクは燻っている。
【クロワッサン】

全人代に見る今年の中国の経済政策
2017/3/07
中国は3月5日に開幕した全人代で、今年の経済成長率の目標を「6.5%前後」とする方針を示した。昨年の成長目標は6.5〜7.0%、実績値は6.7%であり、今年の目標はこれを下回る。尤も、経済の実力である潜在成長率は5〜6%程度と見られ、目標を下げたと言っても、実力をかなり上回る成長を目指していることに変わりはない。リーマンショック以降、中国は高すぎる成長を維持しようと試みる余り、大規模な金融緩和や拡張財政を続けてきたが、その結果、膨大な過剰ストックや過剰債務が発生し続けている。習近平主席はこの問題を十分に認識し、無理に成長を高めることの弊害は大きいと就任直後から度々警告してきたのだが、その同氏の下でも成長目標を身の丈に合った水準に下げることは未だ実現していない。

今年の成長見通しを下げるのが困難だった背景には、秋に5年に1度の重要な人事が予定されていることがある。中国共産党は2010年〜2020年までの10年間に、所得を倍増する目標を掲げており、そのためには6.5%以上の成長を維持することが必要となる。これを下回る目標を設定すれば、人事を控えた重要な時期に、政敵に付け入る隙を与えることになるというわけだ。習氏は、集団指導部体制の中でも一段高いポジションにあることを示す「核心」とされ、権力基盤の強化が窺われるが、それでも、成長目標でリスクを冒すことはできなかったのだろう。事情はともあれ、今回の成長目標が意味することは、中国は今年もまた、実力を大きく上回る成長を維持すべく、インフラ投資や減税を繰り返し、バブルを醸成して資源配分を大きく歪め、生産性を低下させる政策を取り続ける、ということである。目先の成長を高めるために、潜在成長率をさらに低下させるという悪循環が、今年も続きそうである。
【クロワッサン】

消費低迷の元凶
2017/2/21
天候不順による生鮮食品の価格高騰は、家計の実質購買力を押し下げ、昨秋以降の個人消費を抑制した。もっとも、消費が低調なのは今に始まった話ではない。2012年末にアベノミクスが始まって以来、好調といえたのは最初の1年だけで、その後は低迷が続いている。この間、雇用所得環境は改善が続いていた。となれば、やはり元凶は物価高だろう。2012年末から2015年半ばまで続いた円安による輸入物価の上昇と、2014年4月の消費増税が物価を押し上げ、家計の購買力を損なったのである。2014年末には原油市況の下落が始まり、国内でもエネルギー価格は急落したが、円安の影響で、2015年末頃まで食料品などの値上げが繰り返されたため、家計の購買意欲は戻らなかった。

とはいえ、何故、物価上昇が消費にそれほど大きな悪影響を及ぼすようになったのか。これは、高齢化が影響している。世帯主が60歳以上の高齢世帯による消費支出は、2004年には全体の36.4%だったが、10年後の2014年には50.4%を占めるに至った。高齢世帯の61.2%は無職、19.9%は個人営業などで、勤労者は18.9%に過ぎない。円安で業績が改善し、輸出企業などで賃金が上昇しても、恩恵を受ける人が減っているため、消費が刺激されず、円安による物価高の悪影響だけが前面に現われる格好となっているのである。

ちなみに、2016年は年初から円高が進み、エネルギー以外の財価格も低下したが、それでも消費は冴えなかった。その原因の一つは、2016年1月末に日銀が打ち出したマイナス金利政策だろう。マイナス金利導入で長期金利は大幅に低下、金融システムや年金制度への懸念が広がり、株安が助長された。銀行の預金金利はマイナスにならなかったが、終身保険や個人年金保険の発売停止が相次ぎ、家計は将来の金利収入への期待を喪失、センチメントは悪化し、消費が抑制されたのである。

今後、米国では、拡張財政と継続利上げが行われる見通しだが、これはトランプ政権の意図に反してドル高円安を引き起こす。その場合、米産業界が自国の中銀のみならず、円安を助長する日銀をも批判するのは想像に難くない。ただ、それだけではなく、日本国内でも円安が家計の購買力を損なうとして、日銀批判が起こるのではないか。日米から政治的な圧力を受け、日銀は長期金利の誘導目標を早期に引き上げる可能性がある。
【クロワッサン】

何故、賃金は伸び悩んでいるのか
2017/2/7
2016年の実質賃金は5年ぶりに増加したが、その伸びは前年比0.7%と冴えず、さらに0.2ポイント分は原油安などの物価下落によって嵩上げされたものだった。日本経済は2014年年初に完全雇用の状態に突入し、その後も人手不足は深刻化するばかりだが、何故、賃金は伸び悩んでいるのだろうか。

原因は複数あるが、まずは数字上・統計上の問題について見る。企業はここ数年、人手確保があまりに困難なため、短時間しか働けない主婦や高齢者であっても積極的に採用するようになった。この結果、平均労働時間が短くなっている。ところが、日本の代表的な賃金統計である毎月勤労統計は、一人当たりの「月給」を調べる統計であるため、労働時間が短い人の増加によって「月給」が減った場合でも、賃金が減少したと認識されることとなる。次に、これも人手不足に起因するが、採用難の企業は、効率の低下に目を瞑り、短時間労働者のみならず、必ずしも適性が高いとは言えない人材をも雇い入れている。この結果、時間当たりの生産性の向上は滞る傾向にあり、これも賃金を抑制している。最後に、就業者の6割を占める正社員が、雇用の安定を重視する余り、企業の固定費の増加に繋がるベアの引き上げを強く主張していないということがある。ここ数年、ベア引き上げに最も積極的なのは、労組ではなく首相官邸であった。

とはいえ、昨年12月の新規求人倍率は2.18倍とついに1991年2月の水準に並んだ。1963年の統計開始以来、この2.18倍を上回ったのは1973年だけであり、こうした異例の人手不足を前に、賃金上昇に弾みが付くのも時間の問題ではあるだろう。現時点では、労働需給に最も敏感に動くアルバイトやパートの募集時時給の伸びが一段と高まる様子は見られず、2017年春闘も前年度の業績を反映して、冴えないものとなりそうであり、直ちに賃金上昇が加速することはないと思われる。しかし、グローバル景気の回復モメンタムが強まる中、輸出主導で日本経済も回復が続くのであれば、年内に様相が変わってくる可能性は十分にあるだろう。
【クロワッサン】

ドル高から逃れられない米製造業
2017/1/24
米大統領選後、トランプノミクスへの期待からドル高が急進したが、年明け以降はやや調整している。トランプ大統領が保護主義的な主張を変えないことも、ドル安の材料とされているようである。もっとも、保護主義的政策を含め、同氏が主張する政策は、一貫してドル高を惹起する性質のものである。まず、大規模な減税やインフラ投資がドル高をもたらすことは論を俟たないだろう。とりわけ、完全雇用下にある今の米国で実施されれば、インフレ圧力が高まり、FEDもより多くの利上げを行わざるを得なくなる。財政拡張と金融引き締めのポリシーミックスが、第一期のレーガン政権でドル高を惹起したのと同じ構図である。

保護主義的政策については、まだ具体策が明らかにされていないが、今のところトランプ氏は、特定国に高率の関税を課すことや国境税の導入に言及している。これらは、容易には実現しないだろう。まずは、WTO違反となる可能性が高い上、最大の貿易赤字先である中国に、米国製品の不買運動や中国内の米国企業への制裁など、強力な対抗手段があるためである。ただ、仮に実現する場合には何が起こるか。おそらくは、ドル高が起こる可能性が高い。第一に、これらの政策は米国の財・サービスに対する需要を相対的に高めることでドル高が進む。第二に、これらの政策は、輸入物価を押し上げ、米国の物価高に直結し、これもドル高に繋がる。第三に、同氏の思惑通り、生産拠点が米国に回帰した暁には、既にタイトな労働需給が一段と逼迫し、これもインフレ圧力を一段と高める。インフレを阻止すべくFEDが金融引き締めを行い、ドル高が進むため、米国の製造業が競争力を取り戻す、という話にはならない。

掟破りのトランプ大統領は、ドル安が望ましいと公言するかもしれない。その場合、実際にドルが下落するリスクも否定はできないが、当然にして、輸入コストの上昇からインフレ圧力は加速し、FEDはより多くの利上げを行うこととなる。最終的にはドル高に戻るだろう。ちなみに、FEDがインフレ高進を容認し、緩和的なスタンスを続ければ、ドル高は阻止されると思われるかも知れないが、名目ベースのドル高が阻止されたとしても、インフレの上昇によって、実質ベースのドルは結局のところ押し上げられる。いずれにせよ、米国の製造業が直面するのは、通貨高による輸出競争力の低下である。
【クロワッサン】

トランプ相場、日本の消費にも追い風に
2017/1/10
トランプ次期米大統領は、大規模な減税やインフラ投資を高らかに掲げるが、仮に実現する場合でも、それが実体経済を押し上げるのは、早くて今年半ば以降となる。とはいえ、トランプノミクスに対する期待から、金融市場では株高が進展、それによって家計や企業のセンチメントが大きく改善し、早くも米国では内需が刺激され始めている。そして、遅ればせながら日本でも、株高の恩恵が広がる兆候が表れてきた。

今後半年間の見通しについて家計に尋ねた消費動向調査によると、12月の消費者態度指数(季節調整値)は3ヵ月ぶりに改善した。11月は前月差1.4ポイントの悪化だったが、12月は2.2ポイントもの改善となっており、ここ2ヶ月はかなり大きく変動している。11月8日の米大統領選後から日本でも株価が上昇したが、11月の消費動向調査においてセンチメントが改善どころか悪化したのは、株高が始まって間もない15日に集計され、株高が十分に織り込まれていなかったためだった。さらに11月は、天候不順で生鮮食品の価格が急騰し、これも足を引っ張った。一方、12月は株高の影響が本格的に織り込まれ、また、生鮮食品の価格高騰が一服してきたため、センチメントの大幅な反発につながったのである。

もとより、日本国内の雇用情勢は良好で、名目賃金は緩やかながらも増加し、そうした中で、原油安と年前半の円高によってインフレ率が低下、実質所得が拡大している。元々、消費が持ち直す素地は徐々に形成されていたのであり、そこに株高が加わったことで、個人消費は早晩持ち直しそうである。消費動向調査における2017年1-3月期のサービス等の支出予定について尋ねたサービス支出DIについても、DIを構成する6系列(「家事代行サービス」、「スポーツ活動費」、「レストラン等外食費」、「自己啓発」、「コンサート等の入場料」、「遊園地等娯楽費」)のすべてが改善し、2013年4-6月期以来の水準まで持ち直してきた。とはいえ、個人消費は一本調子の回復ともなりそうにない。米大統領選後には円安や原油高も進んでおり、これらはいずれ物価を押し上げる。これまでのように名目賃金の上昇ペースが緩慢であれば、実質購買力が再び損なわれることとなり、消費の足を引っ張る可能性がある。
【クロワッサン】








※不定期で寄稿しています。
※クロワッサン氏は、外資系金融機関の女性エコノミストです。